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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)168号 判決

被控訴人 兵庫相互銀行

理由

控訴人が主債務者関西精機株式会社(以下「関西精機」と略称する)の被控訴人に対する月掛積立金契約に基く給付金返還債務の連帯保証債務に付被控訴人により強制執行として昭和二九年一一月六日控訴人所有動産の差押を受けたこと、ならびに関西精機が昭和三〇年二月八日被控訴人に対して右債務の弁済として(但し残存債務の全額の弁済であるかそれとも一部内入弁済に留まるかについては後に認定する。)金六、五六八円を支払い、昭和三二年二月二五日控訴人が当該執行吏から右差押解放の通知を受けて右動産に施された差押の表示書を自ら撤去したことはいずれも当事者間に争がなく、(証拠)を総合すれば、関西精機の被控訴人に対する前記債務は昭和三〇年二月八日の前記金六、五六八円の支払によつてその元利金及び遅延利息等全額が完済せられたこととなり、これに伴ない前記強制執行については執行債権が任意弁済により消滅するに至つたものであることが認められ、右認定に反する証拠はなく右支払によつてもなお遅延損害金七、二一六円の債務が残存する旨の被控訴人主張の事実はこれを認めるに足りる証拠がない、したがつて被控訴人は前記の金六、五六八円の支払を受けた後遅滞なく控訴人の所有動産に対する前記執行処分を解放すべかりしものであつたというべきである。

(証拠)によれば、被控訴人は前記関西精機を主債務者とする連帯保証債務の外になお控訴人が当時主債務者道広正四のため被控訴人に対して別途負担していた連帯保証債務の弁済を得るためにも前記強制執行手続を利用するを便として右既存の執行手続の維持進行をなすべきことを当該執行吏に求め、執行吏も引続き右強制執行が存続せられているものとして前記差押物件に関し昭和三〇年一月二五日、二月八日、六月二八日、七月二七日、一〇月二七日及び一一月二八日の各競売期日を定めたが結局差押物件の競売実施に至らないまま昭和三二年二月二五日に至り一旦は執行債権の弁済による消滅を理由に控訴人に対して差押解放の通知を発しながらそれ以後も引続きなお右強制執行手続が存続しているものとしての取扱を継続し、昭和三七年七月二四日に至つて右差押を解放したものであることが認められ右認定に反する証拠はなく、しかも控訴人と被控訴人の間において、道広正四を主債務者とする控訴人の前記保証債務の満足のためにも右差押が維持せられることを受忍すべき旨の被控訴人主張のような約定が存した事実は、前記甲第九号証中に「道広正四の債務金に付控訴人所有動産の差押をなし、昭和三〇年一二月二七日差押物件の競売が行なわれるべきことを被控訴人京都支店の係員柴垣政夫より控訴人に通知する」旨の記載がある外には、これを肯認するに足りる証拠は何もなく、右甲第九号証も弁論の全趣旨と対比考察するときは到底これをもつて右約定の成立を認定するに足りる確証とはなし難い。

右によれば被控訴人は控訴人所有の動産に対して昭和三〇年二月九日以降控訴人に対する昭和三七年七月二四日付の差押解放通知がなされるまでの間不当に執行を継続したものとというべきである。しかしながら右執行継続に因り控訴人がその主張の如き事業利益の分配に与かり得なくなつたことをもつて、一般に前記の如き不当執行がなされた場合につき事物自然の性質上通常生ずべき財産上の損害であるとは到底認めることができない。したがつて控訴人につきかりにその主張の経過によりその主張する如き態様及び金額の損害が発生したとしても、右損害は特別事情の介在に基因するものというべきである。(しかも控訴人主張の経過による損害発生の事実を肯認し得ないことは後記のとおりである。)

ところで控訴人主張の事業投資計画が確定的に成立し、控訴人において現実に金五〇万円を右事業に投資することによつて毎月控訴人主張の額の利益分配を受け得べかりしこと、土井伊助が控訴人に対し右投資金に充てるべき金額の貸付を確約していたに拘らずその後被控訴人による前記執行継続を原因として土井は右金員貸借を拒否するに至つたため控訴人の右投資の実行が挫折しその結果として控訴人が右事業収益の分配に与かる機会を喪失したこと等の事実の経過は、当審における証人竹井源之助及び西田増造の証言中これに添う趣旨に解せられる証言が存する以外にはこれを認定するに足りる証拠がなく、右各証言部分も単に他人からの伝聞事項を供述するか証人の推測の域を出ないものであることが各証言自体によつて明らかであつて、いずれも弁論の全趣旨に照らして措信し得ないところであるばかりでなく、更に控訴人が財産上の損害発生の事由として主張する右事情が存すべきことを被控訴人において既に昭和三二年二月二六日頃当時及びそれ以降に予見し又は予見し得べかりしものであつたことも前記各証言中一部右に添う趣旨に解せられる証言が存する以外にはこれを認定すべき証拠がなく、右各証言部分は前記のとおりいずれも措信するに足りない。

してみれば爾余の点について判断するまでもなく、控訴人が被控訴人に対し本件差押の継続を理由として前記分配金相当額の損害賠償を求める本訴請求は失当たることが明らかだといわなければならい。

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